大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 五木は涙を堪えるように、小刻みに震えていた。

「志乃様……。五木は、昨晩志乃様がおっしゃられた言葉を、決して忘れませぬよ」

 しばらくして瞳を潤ませた五木が、ゆっくりと口を開く。

「言葉……ですか?」

「はい。旦那様を“守る”と言って下さったことです」

 五木の声に、志乃は途端に頬を真っ赤にすると下を向いた。


「き、聞こえていたのですね。あれは、咄嗟に口から出てしまったもので……。でも……」

「でも?」

「昨夜、旦那様にお伝えした気持ちに変わりはありません。私は旦那様を、過去の悲しみからお救いしたいのです。そして、本当の笑顔を見たい……。そう思います」

 志乃の言葉に五木は深くうなずく。

 五木は目元を手ぬぐいで拭うと、静かに顔を上げた。


「少し、昔話をいたしましょうか」

 五木は庭の奥の離れを懐かしむように見ている。

「昔話ですか?」

 小さく首を傾げる志乃に、五木は静かにうなずいた。


「坊ちゃん……花奏様と香織様のお話です」

 五木が出した名前に、志乃ははっと息をのむ。

 五木は初秋の空を見上げると、ゆっくりと口を開いた。
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