大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「お父上亡き後は、まだ学生だった花奏様がこちらへ戻り、家業を継がれましたが、当初はなかなか思い通りに事業が進まず、悩まれることも(おお)ございました」

 五木は苦しそうに眉を下げると、静かに目を閉じた。

「そんな花奏様の様子を側で見ていた香織様も、さぞかしもどかしかったのでしょう。だからこそ、花奏様の助けになればと思い、気乗りしない縁談も受けたのだと思います……」

 志乃は花奏から聞いた話と重ね合わせ、香織の決心に胸が苦しくなる。

 兄のために嫁いだ先で、まさかあんな未来が待っていたなんて……。


「その後のことは、志乃様が昨晩、花奏様から伺った通りにございます」

 五木は肩を震わせると、静かに声を殺して泣き出した。

 志乃はやるせない気持ちで、胸が張り裂けそうになる。


 しばらくして、静かにそのすすり泣く声を聞いていた志乃に、五木が顔を上げた。

「香織様が亡くなって以降、花奏様はもの思いにふけることが多くなりました。私はいつも、いつか花奏様が目の前から消えてしまうのではないかと、不安を抱えていたものです……」

 志乃は初めて花奏を見た時の、儚くて今にも消えてしまいそうな姿を思い出す。
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