大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 演奏を終え、ふうと静かに息をした志乃は、ふと人影を感じてはっと顔を上げる。

 すると志乃の右横にある、障子を開け放った離れの縁側に、花奏が腰かけていたのだ。

 着流し姿の花奏は、志乃に背を向けたまま、腕を組んでいるようだった。


「だ、旦那様! お帰りだったのですね。申し訳ございません、私……」

 志乃が慌てて立ち上がろうとすると、それを止めるように花奏はそっと片手を上げた。

「志乃、そのままでよい。もうしばらく、お前の箏を聴かせてくれないだろうか?」

 ちらりとこちらに向けた花奏の横顔は、とても穏やかで優しい。

 てっきり、勝手に離れに入って箏を弾いたことを、(とが)められると思っていた志乃は、驚いたように浮かせていた腰をぺたんと座布団に落とした。


「お叱りにならないのですか……?」

「なぜ?」

「香織様の形見の箏を、私が勝手に弾いたからです……」

 うつむきながら答える志乃に、花奏は振り返るとくすりと肩を揺らす。
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