大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「ところで花奏は?」

「旦那様は今、あちらでお休みになってます」

「休んでる?」

 すると田所が驚いたように、再び離れの奥へ顔を覗き込ませた。


「驚いたな。花奏が人前でうたた寝するなんて。こりゃ季節外れの雪が降るかもしれないね」

 田所がいたって真面目な顔をしながらおかしなことを言うので、志乃はつい吹き出してしまう。

「まぁ、田所先生ったら」

 すると田所はさらに顔をずいっと覗き込ませた。


「いやいや、これは真面目な話だよ。それぐらい志乃ちゃんに、心を許してるってことだからね」

 大きくうなずく田所の言葉に、志乃は頬をぽっと染めた。

「そうであれば、嬉しいのですが……」

「そうであるに決まってるさ。前にも言っただろう? 僕はね、志乃ちゃんだったら、花奏のことを救えると思っていたんだ」

 ドンと自分の胸を叩く田所の声に、志乃はうつむくと小さく首を振る。


「いいえ。きっと私はまだ、本当の意味では旦那様をお救いできていないのです。まだ本当の妻にもなれていないのと同じように……」

 次第に声が小さくなる志乃に、田所は驚いたように目を丸くした。
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