大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 田所は“妻”という部分を強調するかのようにそう言うと、そっと志乃に目配せをした。

 その途端、志乃は背筋をぴんと伸ばす。

 もしかしたら田所は「まだ本当の妻にもなれていない」と話した志乃の、背中を押してくれようとしているのかも知れない。

 でも……。


 ――田所先生のご厚意は嬉しいけれど、旦那様はご不快に思われたのでは……。


 不安になった志乃が花奏の様子を伺うと、花奏は腕を組んだまま静かに目を閉じている。

 でもしばらくしてから、花奏は「わかった」と低い声を出した。


 その言葉を聞いた途端、思わず志乃は顔をパッとはじけさせる。

 花奏と一緒に出かけるのも初めてなのに、その先が社交界だとは。


 ――旦那様のお仕事に、ご一緒できるなんて。なんだか夢のようだわ……。


 志乃はどきどきと期待で膨らむ胸をぎゅっと押さえる。

 少しでも花奏の妻として認められるためにも、このつとめをきちんと果たさなければならない。


 ――責任重大だわ。


 もう志乃の頭は、まだ見ぬ“社交界”のことで、いっぱいになってしまった。
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