大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~

心の内

「志乃ちゃんは、本当に素直だね」

 走り去る志乃の背中を眺めながら、田所が楽しそうに肩を揺らす。

「まぁ、そうだな」

 そう答える花奏の顔つきも、まんざらでもない。

 縁側に腰かけた田所は、目を細めると、そんな花奏の顔を覗き込んだ。


「花奏は、志乃ちゃんが愛しくてたまらない様子だね」

 田所がからかうように言い、花奏はじっとりと田所を睨みつける。

「志乃はとにかく危なっかしいのだ。それでヤキモキしているだけだ」

「そうかなぁ?」

 花奏はふんと顔を背ける。


 ふと目をやった床の間には、今朝志乃が活けたサザンカの花が、淡い紅色の花を大きく広げていた。

 その華やかさに、近頃特に美しさを増してきた、志乃の姿を重ね合わせる。

 志乃は元々可憐であったが、最近ではふとした時に見せる表情が、大人として成熟した様を感じさせるのだ。

「旦那様」

 そう言ってほほ笑む志乃を前にして、はっとさせられたことは一度や二度ではない。
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