大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
でも花奏はまだ、はっきりとした意思を持って志乃に触れてはいない。
肩を強く抱いたのも、軍楽隊の演奏会の日一度きりだ。
それを知ってか知らずか、つい先日も五木に小言を言われたばかりだったことを思い出す。
「もうはっきりと、奥様とお認めになられてはどうですか?」
五木は腰に手を当てながら、大きくため息をついていた。
花奏自身は、志乃の母親が回復した時点で、たとえ志乃が実家に帰ったとしても、もうこの先、志乃以外の者を家に迎えることはないだろうと思っていた。
それ程までに、志乃に心動かされ、惹かれていたのだ。
でも志乃が、花奏の元に留まることになった今、その先の関係を躊躇い、立ち止まってしまう自分がいる。
まだ若く美しく生命力がみなぎる志乃を、一度は死を望んでさえいた死神の元になど、留めておいて良いはずがないのだと、再びそんな考えが浮かんでくるのだ。
花奏はふと、社交界の話に心躍らせ、嬉しそうに母屋に戻った志乃の横顔を思い出した。
志乃を社交界に連れて行けば、その美しさに、一躍人々の注目を集めることは確かだろう。
肩を強く抱いたのも、軍楽隊の演奏会の日一度きりだ。
それを知ってか知らずか、つい先日も五木に小言を言われたばかりだったことを思い出す。
「もうはっきりと、奥様とお認めになられてはどうですか?」
五木は腰に手を当てながら、大きくため息をついていた。
花奏自身は、志乃の母親が回復した時点で、たとえ志乃が実家に帰ったとしても、もうこの先、志乃以外の者を家に迎えることはないだろうと思っていた。
それ程までに、志乃に心動かされ、惹かれていたのだ。
でも志乃が、花奏の元に留まることになった今、その先の関係を躊躇い、立ち止まってしまう自分がいる。
まだ若く美しく生命力がみなぎる志乃を、一度は死を望んでさえいた死神の元になど、留めておいて良いはずがないのだと、再びそんな考えが浮かんでくるのだ。
花奏はふと、社交界の話に心躍らせ、嬉しそうに母屋に戻った志乃の横顔を思い出した。
志乃を社交界に連れて行けば、その美しさに、一躍人々の注目を集めることは確かだろう。