大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「ねぇ花奏、どうして志乃ちゃんを、妻として愛さないんだい?」

 田所の真っすぐな声に、花奏ははっと顔を向ける。

「志乃ちゃんは、とても魅力的だよ。花奏だってそう思っているんだろう? そして志乃ちゃんは、お前に愛されることを願っている……」

「だからだ」

 花奏は田所の言葉を遮るように声を出す。

「だから、志乃には触れられぬのだ」

「え?」

 田所は眉をひそめると、小さく首を傾げた。


「俺は志乃のおかげで、こうして香織のことを、少しずつ思い出に変えていくことを知った。過去を忘れることは、決して悪いことではないと知ったのだ。それ程、志乃には人を癒す力があるし、魅力がある」

 花奏は一旦口をつぐむと、遠くを見つめるように空を仰ぐ。

「だからこそ、志乃は俺の側になど、いてはならぬと思う時があるのだ。志乃はこのまま、俺の妻になど、なってはならぬのだと……」

「だから触れないというのか?」

 問い詰めるような田所に、花奏は揺れる瞳を向ける。

「そうだ……。でも、かと言って、志乃を突き放せぬのだ。あの笑顔を見る度、衝動的に抱きしめてしまいそうになる……」
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