大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「そうすればいいじゃないか!」

 田所は大きく両手を上げると、バンと縁側の板に叩きつけた。

「田所?」

「その感情のままに、志乃ちゃんをきつく抱きしめて、自分のものにすればいいじゃないか!」

 田所は強い瞳を花奏に向ける。


「花奏はまだ恐れているんだよ。素直に気持ちをぶつけてくる志乃ちゃんに、目の前に現れた幸せに戸惑っている。そして、自分が幸せになっていいはずがないと、必死に自分に言い聞かせているんだ」

 田所は手を伸ばすと、花奏の肩をぐっと掴んだ。

「でも、お前は一歩踏み出したんじゃないのか。もう以前のような、死神のお前じゃないだろう?」

 花奏の肩を揺する田所の手が、小刻みに震えている。

「花奏、お前はあまりにも多くの人を見送りすぎた。あまりにも多くの人の死を、見すぎたんだよ。もうこれ以上、自分を苦しめるのはやめてくれ……」

 田所は声を震わせると、拳を握り締めながら下を向く。

 花奏は大きく首を振ると、田所の手を静かに離した。


「田所、俺は自分を苦しめているのではない。志乃の幸せを願っておるのだ」

「違う!」

 花奏の言葉を遮るように、田所の大きな声が響く。
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