大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「お前は何もわかっていない。志乃ちゃんの幸せは、お前の側にいることなんだよ……」

 目の前の庭をサッと風が吹き抜け、辺りの木々を大きく揺らした。

 その風に舞うように、サザンカの花びらが数枚、はらはらと散っていく。


 どれほど時間が経ったのだろう。

 田所は眉を下げると、花奏の顔を見つめた。

「自分を苦しめているのでないなら、教えてくれよ。じゃあなぜ……なぜ花奏は、未だにその髪を切れないんだ……」

 苦しげな田所の言葉に、花奏ははっと息を止める。

「……髪……?」

 花奏はつぶやくと、大きく風に揺れる自分の髪に触れる。

 その様子を見て、田所は静かに立ちあがった。


「志乃ちゃんは、お前の本当の妻になることを望んでいるよ。志乃ちゃんはお前が思う以上に、大人なんだ。身も心もね」

「田所……?」

「よく考えてみるんだ、花奏。お前は志乃ちゃんが、他の男に抱かれるのを見て、平静を保っていられるかを……」

 田所はそう言い残すと、花奏に背を向け、静かに離れを後にする。

 ただ一人離れに佇む花奏の前には、冷たい風だけが流れていた。
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