大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
長い髪のわけ
志乃が炊事場で、来客用の湯飲みとお茶菓子を盆にのせていると、離れから歩いてくる田所の姿が目に入る。
「あら、田所先生、もうお帰りですか?」
慌てて外へ顔を覗かせた志乃の声に、田所は寂しそうに笑った。
「今日は少し寄っただけだからね。もう、おいとまするよ」
「そうですか……。ではお見送りを」
志乃は手に持っていた盆を一旦台に戻すと、袖をくくっていた襷を外しながら、田所の後について外の戸へと向かう。
先ほど、田所が離れから戻る前、花奏と田所の言い争うような声が、風に乗って志乃の耳に届いていた。
話の内容まではわからなかったが、明らかに志乃がいた時とは様子が違う二人の声に、志乃は内心不安を感じたのだ。
ゆっくりと砂利道を進みながら、花奏が見送りに出ないのは、そのせいかも知れないと、そっと離れを振り返る。
表へ続く小さな戸をくぐり、顔を上げると、見慣れた田所の自転車が壁にもたれるように立てかけてあった。
「あら、田所先生、もうお帰りですか?」
慌てて外へ顔を覗かせた志乃の声に、田所は寂しそうに笑った。
「今日は少し寄っただけだからね。もう、おいとまするよ」
「そうですか……。ではお見送りを」
志乃は手に持っていた盆を一旦台に戻すと、袖をくくっていた襷を外しながら、田所の後について外の戸へと向かう。
先ほど、田所が離れから戻る前、花奏と田所の言い争うような声が、風に乗って志乃の耳に届いていた。
話の内容まではわからなかったが、明らかに志乃がいた時とは様子が違う二人の声に、志乃は内心不安を感じたのだ。
ゆっくりと砂利道を進みながら、花奏が見送りに出ないのは、そのせいかも知れないと、そっと離れを振り返る。
表へ続く小さな戸をくぐり、顔を上げると、見慣れた田所の自転車が壁にもたれるように立てかけてあった。