大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「花奏の髪のことだよ……」

「旦那様の髪……ですか?」

「そう。花奏はね、香織ちゃんが亡くなってから、髪を切っていないんだよ」

「……え?」

 志乃は小さく聞き返した。

 髪を切っていないとは、どういうことだろう?

 確かに花奏の髪は長く美しい。

 初めて出会った時から、風に揺れるその髪に、つい目を奪われていたのは事実だ。

 すると首を傾げる志乃に、田所がゆっくりと続けた。


「僕が思うにね、切りたくても、切れないんだよ」

「どういうことですか……?」

「香織ちゃんの死を()の当たりにしたその日から、花奏の髪は香織ちゃんへの、懺悔の証(ざんげのあかし)のようになってしまったんだと思う」

「懺悔の……証……?」

 志乃はその言葉の意味がわからず、戸惑うように瞳を揺らす。

 田所は悲しげな顔を、志乃に向けた。


「花奏の髪はね、この先自分は幸せを望んではいけないと、自らを(いまし)めるものになってしまったんじゃないかと思うんだ」

「そんな……」

 志乃は息を止めると、かすかに冷たくなった自分の手をぎゅっと握った。
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