大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 その日の晩、片づけを済ませた志乃は、いつものように五木に先に休むと声をかけると、暗い廊下を進み自分の部屋へと向かった。

 ギシギシと音の鳴る廊下を歩きながら、ふと先ほどまでの花奏の様子を思い出す。


 田所が帰った後、離れから戻った花奏は、いつもと変わらぬ顔つきをしていた。

 静かに食事をとり、穏やかな声で五木と会話をし、脇に湯飲みを置く志乃に、優しくほほ笑んでくれた。

 でもその後は、まだ仕事が残っているからと言って、早めに自分の部屋にこもってしまった。


 今までにも、そういう日は度々あったはずだ。

 でも今の志乃には、その様子ですら、花奏が再び過去に閉じこもってしまうような気がして、不安でたまらなかった。

 そして花奏の長い髪が揺れる度、志乃は酷く心をえぐられたような気持ちになって苦しくなるのだ。


 志乃はふと、田所の話を思い出す。


 “懺悔の証(ざんげのあかし)


 田所は、花奏の髪のことをそう言った。

 自分は幸せになってはならぬと(いまし)めるものに、花奏の髪はなってしまったのだと。
< 148 / 273 >

この作品をシェア

pagetop