大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 まるで呪いのように花奏を縛り付ける苦しみを、どうしたら溶かしてゆけるのか……。

 志乃は花奏の部屋の前まで来ると、ぴたりと足を止める。

 毎夜ここで障子越しに花奏に声をかけ、「おやすみなさいませ」と言ってから自分の部屋に入るのが最近の常なのだ。


 でも今日だけは、この障子を開け放ってしまいたいという衝動にかられる。

 そして花奏の胸に飛び込み、その熱を確かめたいのだと思ってしまう。

 香織の箏を弾いた時のように、強引に心に押し入れば、花奏は志乃を受け入れ、苦しみから解き放たれていくのだろうかと……。


 志乃は部屋の前で一旦息を整えると、小さく口を開く。

「旦那様……志乃です」

 志乃は声を出しながら、障子の縁にそっと手をかけた。

 部屋は静まり返っていたが、しばらくして、かすかな物音と共に花奏の気配が伝わってくる。


「あぁ、志乃か。いかがした?」

 少し間をおいて、花奏の低い声が部屋の奥から聞こえた。

 その声を聞いた途端、志乃は障子にかけていた手を離すと、胸の前でぎゅっと両手を握り締める。
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