大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~

初めての社交界

「良いですか、志乃様。たとえ物珍しいものがあっても、決して駆け寄ったり、じろじろ覗いたりしてはなりませぬぞ」

 五木が志乃のドレスの裾を整えながら、いかめしい顔つきで下から覗き込む。

「わ、わかっております……」

 志乃はドレスの上から、中に着たコルセットを押さえると、なんとか息をしながら声を絞り出した。


 あれからしばらく経った今日は、初めて花奏と外出をする社交界の日だ。

 場所は海軍の施設が集まる街の中心地にあり、貿易商として名をはせている方の自邸だそうだ。

 今回は軍の関係者から政財界の要人に加え華族、外国の貿易商も招待されており、花奏の仕事においても重要な会なのだと、五木から教えてもらった。


 志乃ははじめ、社交界へは着物で行くものと思っていたが、用意されたのは西欧風のドレスだった。

 ドレスなど一度も着たことがない志乃は、一目見ただけで、そのあまりに華やかで優美な装いにため息が漏れてしまう。

 ドレスは濃紺で袖が長く、ピンタックの襟元には白地のレース素材が使われた清楚なもので、白い組紐の飾りボタンがモダンだった。
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