大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 ガタクリと鳴る車に揺られながら、志乃は隣に座る花奏の横顔をそっと見つめる。

 花奏は、冷たさを増してきた風に髪を揺らしながら、何かもの思いにふけるように、通り過ぎる海岸を見つめていた。


 あれからも志乃と花奏の関係は変わっていない。

 離れで二人きりで過ごすことはあっても、花奏は決して志乃には触れなかったし、夜に花奏の部屋に呼ばれることもなかったのだ。


 しばらくして、小さく息をついた志乃が顔を上げた時、目線の先に広大な敷地に建つ建物が見えてくる。

 車は敷地の前に来ると、そのまま鉄製の門をくぐり、西欧風の庭園をぐるりと回りながら建物の前に停車した。


「まぁ、なんて立派なお屋敷……」

 車から降りた志乃は、思わず目の前の立派な洋館を見上げて声を出す。

 ここは港近くの高台にある大きなお屋敷が建ち並ぶ地域だが、その中でもこの建物が別格だということは、志乃にも一目でわかった。

 それ程この洋館は重厚で、圧倒的な存在感を放っているのだ。
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