大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 ――だから私を、お部屋にも呼んでくださらないのかしら……。


 チクリと胸が痛み、小さく息をついた志乃は、そっと顔を上げてドキリとする。

 花奏の優しい瞳は、志乃を包み込むように見つめているのだ。

 途端に頬を真っ赤にした志乃は、その瞳に射抜かれて、自分が倒れてしまうのではないかと思いながら階段を上りきった。


「まぁ、あれは何ですか?」

 ゆっくりと花奏と共に建物に足を踏み入れた志乃は、玄関の開けたホールの目線の先に、見慣れない色とりどりの光を放つガラス細工を見つけて思わず声を上げた。

「あれはステンドグラスだ」

 鮮やかな花の絵を模したガラスを花奏が指さし、志乃は「まぁ」と再び感嘆の声を漏らす。

 すると志乃の声に気がついたのか、恰幅の良い中年の男性がこちらを振り返り、にこやかにやって来た。


「これはこれは、斎宮司君」

 男性は野太い声であいさつすると、花奏の手を分厚い手のひらでぐっと握る。

「谷崎様。この度はお招きにあずかり、大変光栄でございます」

 花奏が深々と頭を下げ、志乃もつられるように慌てて頭を下げた。
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