大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「なにを堅苦しいことを言っておられる。うちとは、お父上の代からの付き合いではないか」

 男性は豪快な笑い声をあげる。

 志乃は男性の笑い声を聞きながら、目の前の男性がこの立派なお屋敷の(あるじ)であり、本日の社交界の主催者なのだとわかった。


「ところで、そちらの可愛らしいお嬢さんは? 妹さんですかな?」

 すると男性が、ふと花奏の後ろに控えている志乃に目を向ける。

「いえ、この者は私の……」

 花奏は志乃を振り返りながらそこまで言うと、ふと口を閉ざした。


 どうしたというのだろう?

 花奏は何かを逡巡するように、瞳を揺らしている。


 ――旦那様?


 志乃が小さく首を傾げた時、花奏が静かに口を開いた。


「私の身内の者です」

 その瞬間、志乃の心を小さな棘がチクリと刺す。

 はっきり“妻”と紹介しない花奏の言葉の裏には、やはり志乃を本当の妻として認めていないことが隠されている気がした。


 ――私が幼なすぎるのも、いけないのだわ……。


 途端にそんな考えが、志乃の頭を駆け巡る。


「志乃、谷崎様にご挨拶を」

 耳元で花奏の声が聞こえ、薄く涙を浮かべた志乃は、それを振り払うように大きく頭を下げた。
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