大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 軍の関係者と思われる軍服に身を包んだ将校から、タキシード姿の紳士まで、さまざまな人と仕事の事と思われる難しい話をしていた。

 志乃は初めて見る花奏の貿易商としての顔に、とても新鮮な驚きを感じていた。


 その時、後ろから聞き馴染みのある声が聞こえ、志乃ははっと顔を上げる。

「花奏、志乃ちゃん」

 明るい声に志乃が振りかえると、笑顔で手を振っているのは田所だ。

「田所先生」

 志乃は見知った顔に安心して、思わず大きな声で返事をしながら、そっと隣の花奏の顔を伺う。

 花奏は田所の顔を見ても、特に表情は変わらない。

 先日の二人のいさかいは、今は気にしなくても良さそうだ。


 ホッとした志乃の側へ、田所がにこやかな顔でやって来た。

 田所も今日は、いつものくたびれた白衣に下駄の様相ではなく、黒のタキシードをパリッと着こなしており、見違えるように紳士的だった。

 志乃がふと田所の隣に目をやると、ドレス姿でにこにことほほ笑んでいる女性がいる。

 そっと女性に目をやった志乃は、以前見せてもらった田所の家族写真を思い出し、隣の女性が田所の妻だとわかった。
< 160 / 273 >

この作品をシェア

pagetop