大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「志乃と申します。田所先生には、母のことで大変お世話になりました」

 志乃が慌てて挨拶をすると、田所の妻はにこやかに笑顔を返した。

 志乃はそっと田所の妻を目で追う。

 田所の妻は、モノクロの写真で見た時よりも控えめで、柔らかく落ち着いた印象だったが、妻である存在感はとても大きかった。


 ――なんて素敵な奥様……。私も奥様のように、落ち着いた大人の雰囲気を身につけねば……。


 するとそんな志乃に、田所が笑顔を覗き込ませる。


「志乃ちゃん、今日は一段と綺麗だね。花奏にはちゃんと、褒めてもらったかい?」

 わざとらしく大きな声を出す田所に、志乃はさっきまでの決意を忘れたように、途端にあわあわと頬を赤らめる。

 そんなことを人前で聞かれたら、どうしてよいかわからなくなってしまうではないか。


「ええと、あ、あの……少しだけ……」

 小さく答えた志乃に、田所は大袈裟にのけ反った。

「少しだけ!? おい、花奏。こういう時は男の照れくささなんて捨てて、大いに女性を()(たた)えるものだと、エドワードにも言われていただろう?」

 田所はそう言うと、呆れた様子でそっぽを向く花奏の肩に手を置いた。

 志乃は聞いたことがない名に、小さく首を傾げる。
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