大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 面と向かって“美しい”と言われるなど、そんな経験は今までしたことがない。

 ドキドキと上目遣いで伺う志乃に、エドワードは何も気にしない様子で、にこにことほほ笑んでいる。

 西欧の人にとっては、これも挨拶の一つなのかも知れない。

 すると顔を真っ赤にしてドギマギする志乃の様子に、くすりと肩を揺らした花奏が、耳元で小さく声を出した。


「エドワードは、英国で貿易の仕事をしている、俺の親しい友人の一人なのだ。志乃の事も話している」

「わ、私の事を……?」

 志乃は驚くと、花奏に小さく聞き返した。


 花奏は自分のことを、なんと紹介したのだろう。

 そんなことが頭をよぎり、志乃の心がチクリと反応してしまう。

 やはり先程のように、自分の身内だと言ったのだろうか?


 その時、モヤモヤと考え出した志乃の耳に、どこかで知っている旋律が響いてきた。

 会場の前方に目を向けると、サロン音楽を奏でているのは、ピアノや弦楽器などの奏者たちだ。

 会場にいる人々も、その柔らかな旋律が響き出すと、うっとりとするように音楽に聴き入り、会場内はまるでコンサートホールへと化したように静かになった。
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