大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「だから穏やかで優雅な曲なのですね。まるで、私たちの瀬戸内の波や風のようです」

 志乃が納得したように声を出すと、隣で花奏が小さく息をのむのがわかった。


「旦那様?」

 志乃は小さく首を傾げる。

「いや、すまぬ。少し驚いたのだ」

 志乃を見つめると、花奏は静かに首を振りながら言葉を続けた。

「エドワードが以前、同じことを言っていたのだ。自分の故郷と、この街は似ていると……」

「そうなのですか?」

 志乃は驚いた声を上げながら花奏の瞳を見つめて、途端に頬を真っ赤にする。

 優しく志乃を見つめる花奏の視線が、やけに熱く感じたのだ。


「シノ」

 すると思わず下を向いた志乃の耳に、エドワードの落ち着いた声が聞こえてくる。

「シノ、アリガトウ」

「え?」

「コノキョクハ、タイセツナ、トモダチヲオモッテ、ウタッタウタデス」

「友達を?」

 エドワードはこっくりとうなずくと、そっと志乃の耳元に口元を寄せる。


「シノハ、カナデノ、タイセツナヒト。ダカラ、アリガトウ」

 志乃にだけに聞こえる声でそう言うと、エドワードはにっこりとほほ笑んだ。
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