大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「お師匠様?」

 お師匠様は誰かを待つように、立派な門の前で行ったり来たりしているのだ。

「今日私が訪ねて来ることは、ご存じだったのかしら?」

 志乃は不思議に思いながら小さく首を傾げる。


 それにしてもお師匠様が外に出ているなんて、今までにないことだ。

 いつだって厳しい顔をして、箏の前に座っている方なのに。


 すると志乃の姿を見つけたお師匠様は、「あぁ」と軽く手を上げながらにっこりとほほ笑んだ。

「志乃さん、良く来ましたね」

「お師匠様、ご無沙汰しております。お稽古をお休みしてしまい、申し訳ありません」

 志乃はお師匠様に駆け寄ると、そっと頭を下げる。


「いいのですよ。それより、この度は大変でしたね。お母様の具合はいかがですか?」

「はい。体調は良かったり、悪かったりを繰り返しています。でも田所先生が、本当に良くしてくださって、今のところは皆なんとか過ごせています」

「そう、田所先生が……」


 そこで志乃は母から持たされ手紙があったことを思い出した。

「あの、母からお師匠様宛の手紙をあずかりました。こちらです」

 志乃は慌てて風呂敷包みから手紙を取り出すと、お師匠様に手渡す。
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