大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 唯子の弾むような背中を見送りながら、志乃は谷崎と顔を見合わせてくすりとほほ笑む。

「驚きました。あの日、助けてくださった方に、このような場でお会いできるとは。こちらのご令息だったのですね」

 しばらくして声を出した志乃に、谷崎は頬を染めると、照れたように頭に手をやった。


「いえ、僕の方こそ。あなたを探していたら、まさか唯子と一緒だったとは……」

「え? 私を、お探しだったのですか?」

 何の用件だろう?

 不思議そうに首を傾げる志乃に、谷崎は慌てたように両手を大袈裟に振る。

「い、いえ、その……えーっと」

 谷崎は困ったように頭に手を当てると、そっと志乃の顔を伺った。


「あの、お時間が許すようであれば、少し外へ出ませんか?」

 谷崎は廊下の突き当りに見えるバルコニーを指さしている。

「でも……」

 志乃は花奏のことが頭をよぎり、戸惑って口ごもると下を向く。

「あそこからは庭が一望できるんですよ。後で斎宮司殿にも、教えて差し上げてください」

 にっこりとほほ笑む谷崎に促され、志乃は小さくうなずいた。
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