大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「す、すみません。もしかして、僕は何か大変失礼なことを……?」

 谷崎は慌てた様子で志乃に謝ると、心配したように眉を下げた。

「い、いえ。なんでもありません。どうしたんでしょう……勝手に涙が……」

 志乃はそう言うと、慌てて手袋をはめた手で目頭を押さえる。

 それでも、溢れる涙を抑えようとすればするほど、とめどなく流れる涙の雫は、バルコニーの上へとこぼれていった。


「志乃さん……」

 すると、肩を震わせる志乃の前に、谷崎が優しい顔を覗き込ませた。

「今度、うちに遊びに来ませんか? 唯子もあぁ言っておりましたし、気晴らしにもなるでしょうから」

「でも……」

「唯子はあなたに、お礼がしたいのだと思います。斎宮司殿にも、僕から話してみましょう」

 谷崎は志乃の前に笑顔を見せる。

 谷崎はきっと志乃を気づかって、こう言ってくれているのだろう。

 でも、その気持ちに甘えてしまってよいのだろうか。


 志乃の頭に花奏の顔が浮かぶ。


 ――旦那様。私はあなたにとって、どのような存在なのでしょうか……。


 それから志乃は、固く口を閉ざし、ただその場にじっと立ち尽くしてしまった。
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