大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~

気がついた心

 志乃はガタクリと鳴る車に揺られながら、ぼんやりと外の景色を目で追う。

 今日の空はどんよりと曇っていて、今にも雪が降り出しそうなほどだ。

 志乃は羽織の上に巻いたショールに手をかけると、再びしっかりと身体を覆うように巻きなおした。


 今年もあと六日ほどを残すところとなった今日は、志乃が谷崎の屋敷に招待されている日だ。

 社交界の夜、志乃と共にバルコニーから会場に戻った谷崎は、すぐに花奏の元に向かった。

 そして妹が志乃に助けてもらったことの礼を言い、後日志乃を自宅に招待したいと申し出たのだ。


 志乃は花奏がなんと答えるのか気になって、後ろから静かに花奏の顔を見つめていた。

 でも花奏は、表情一つ変えることなく、谷崎の申し出に了承すると、すぐにその場を外してしまった。

 花奏を追うように席を外した田所が、花奏に何かを必死に訴えかけていたが、志乃には二人が何を話しているのかは聞こえなかった。


「お姉さま!」

 志乃が屋敷に到着すると、唯子が満面の笑みで駆け寄ってくる。

「唯子ちゃん、こんにちは。今日はご招待いただきありがとう」

 志乃がにっこりとほほ笑むと、唯子は「どういたしまして」と大きく返事をした。
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