大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 ――なぜ、谷崎殿から手紙が……?


 瞳を揺らす花奏に、五木が一歩近づいた。


「それが運転手の話によると、志乃様に帰って良いと言われたというのです」

「志乃に?」

「雪が降りだして危ないから、もうお帰りなさいと言われたと……。志乃様は何をお考えなのでしょう? 志乃様自身が、お帰りになれなくなってしまいます……」

 五木は眉をひそめると、しきりに首を振っている。
 

 確かに妙な話だ。

 志乃の帰りは夕方だったはず。

 今の空の様子を考えると、これぐらいの雪であれば、車を走らせても何の問題もない。

 花奏は五木を横目で見ながら、椅子に腰を下ろすと、受け取った手紙をそっと開いた。

 力強い文字で書かれたその手紙に目を走らせていた花奏は、一気に最後まで読み切ると息をのむ。


「旦那様?」

 五木が不安そうな顔を覗き込ませた。

「旦那様、谷崎様は何とおっしゃられて、おいでなのですか?」

 五木の声に、花奏は深く息をつくと、そのまましばらく静かに目を閉じる。

 そして考え込むように口を閉ざした。
< 183 / 273 >

この作品をシェア

pagetop