大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「旦那様!」

 しびれを切らした五木が、三度目に声を上げた時、ようやく花奏は重い口を開いた。


「谷崎殿は、志乃を……」

「志乃様を?」

「もう、ここには戻さぬと書いてある」

「え……ど、どういうことでございますか!?」

 五木は叫び声を上げると、花奏の前に両手をついて身を乗り出した。


「谷崎殿は、志乃をこのまま自分がもらい受けると言っておる」

「な、なんですと!? もらい受けるとは……まさか谷崎様は、このまま志乃様を妻に迎えると、そう言っているのでございますか!?」

 五木は信じられない様子で愕然とする。

 花奏は額に手をあてると、谷崎の手紙を心で繰り返す。


 “僕はもう、あなたのことで泣く志乃さんを、見たくはありません”


 花奏は今朝、ここを出かける際に見せた、志乃の笑顔を思い出す。

 まさか志乃が、自分との関係で、人に涙を見せるほど思い悩んでいたとは思わなかった。

 志乃のためと思い、関係を進めずにいたことが、逆に志乃を傷つけていたというのだろうか。
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