大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「人を愛するということは、こんなにも苦しいものなのか……」

 花奏は、ふいに口を突いて出た自分の言葉に、動揺したように瞳を揺らす。

 そして、自嘲するように、小さく息を吐いた。


 ――あぁ、そうか。やっと気がついた。


 自分には、志乃を失うことほど、恐ろしく怖いものはなかったのだ。

 だからこそ、失う前に必死に手を離し、自ら逃げ出そうとしていたのだと……。


 ――志乃は初めから、目を逸らさずに、俺の事だけを見ていてくれたというのにな……。


 花奏は何かを決心したかのように顔を上げると、そのまま廊下をまっすぐに進む。


「旦那様? いかがなさいました……?」

 花奏の足音に気がついた五木が、慌てて土間に出てきたが、花奏は脇目も振らずに下駄を履くと、そのまま外へと飛び出した。

「旦那様! お待ちください!」

 五木が慌てて追いかけようとするが、花奏はすでに外の門をくぐっている。

「その様な格好では、風邪をひいてしまいます……」

 背中で五木の声が聞こえた気がしたが、花奏はただ前だけを見つめて駆けだしていた。
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