大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 使用人が去った後、谷崎は長い廊下を玄関へと向かいながら、くすりと肩を揺らす。


 ――やはり、迎えに来たか。


 あの手紙を読んだ花奏が、志乃を迎えに来るだろうことは、容易に想像がついた。

 志乃は気がついていないようだが、花奏が志乃のことを誰よりも大切に思っていることは、谷崎の目には明らかだったからだ。


 ――でも、少しだけ期待してしまったな……。


 谷崎はふっと息を吐くように笑う。

 もし仮に花奏が迎えに来なかったらと、心のどこかで願っていたことは確かだ。

 本当の気持ちを言えば、このまま志乃を屋敷に(とど)めてしまいたかったし、花奏との関係に悩む志乃に、もう自分の元に来れば良いと、言ってしまいたかった。


 ――でもそれは、志乃さんが望むことではない。


 谷崎は顔を上げると、一階へと続く階段を下りる。

 玄関では、谷崎の姿を見つけた花奏が、じっとこちらを見つめていた。


 ――僕は呆れる程の、お人好しだな……。


 谷崎はくすりと肩を揺らすと、あえて冷静な振りをして口を開く。

「これは斎宮司殿」

 そしてにこやかに、花奏と対峙するように目の前に立ったのだ。
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