大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 遠くからこちらへ近づく足音が聞こえ、花奏は顔を上げると階段の先に目を向けた。

 するとラフな洋装に身を包んだ谷崎が、にこやかにこちらへ向かってくるのが見える。

 花奏は谷崎に一礼すると、階段を下りて目の前に立つ谷崎を、正面から見据えた。


「これは斎宮司殿。この雪の中を、どうされましたか?」

 先に谷崎が口を開く。

「志乃を迎えに来ました」

 花奏の低いが凄みのある声に、谷崎の瞳がわずかに揺れた気がした。


「迎えに? はて? 手紙をお渡ししたはずです」

 谷崎はわざとらしく、小首を傾げている。

 花奏は再び、谷崎の顔を見据えた。

「手紙は受け取りました。しかし、到底容認できるものではない」

「ですが、運転手を帰したのは、他でもない志乃さん自身ですよ。あなたが迎えに来たからといって、うんと言うかどうか……」

 首を振る谷崎に、花奏は一歩詰め寄る。


「そうですね。それでも私は、志乃を連れて帰ります」

 花奏は顔を上げると、目の前の谷崎の瞳をまっすぐに見つめた。

「志乃は私の、たった一人の大切な妻です。他の誰にも渡すことなどできない」

 静かな玄関ホールに、花奏の声が響き渡る。
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