大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 花奏の揺るぎのない声に、谷崎が小さく息を吸うのが伝わった。

「……やっと本音を言われましたね、斎宮司殿」

 しばらくして谷崎はそう言うと、先ほどとは打って変わって、にこやかにほほ笑んでいる。

「谷崎殿……?」

 花奏が首を傾げた時、視線の端に小さく揺れる人影が映った。

 花奏は、はっと顔を上げる。


「……旦那様?」

 階段の手すりに手をかけながら、驚いたように目を丸くしているのは志乃だ。

 志乃は花奏の姿を見つけるなり、慌てたように階段を駆け下りてくる。


「旦那様、どうされたのですか? ずぶ濡れではありませぬか」

 最期の一段を飛び降りた志乃は、花奏の元に駆け寄ると、驚いたように声を出しながら、慌てて着物の胸元からハンケチを取り出した。

 そして背伸びをして必死に手を伸ばしながら、花奏の艶のある髪についた雫をそっと拭う。


「志乃……」

 花奏は志乃の息づかいを間近に感じながら、愛おしそうに声を出した。

「志乃を、迎えに来たのだ」

 そう続ける花奏の声に、志乃は髪を拭っていた手を止めると、目をまん丸に見開く。
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