大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「谷崎殿、これはいったい……」

 皆のやり取りを見ていた花奏が、戸惑った顔を見せると、谷崎はくすりとほほ笑みながら、口元に人差し指をあてた。

 ふと振り返ると、志乃は唯子と何やらキャッキャと楽しそうに声をあげている。

 花奏は谷崎に続くように玄関の外へと出た。


 さっきまで降っていた雪はやんだのか、一面の銀世界になった庭は、ところどころ屋敷の明かりを反射して、キラキラと輝いている。

「斎宮司殿を、試すようなことをしたことはお詫びします」

 すると谷崎が、急に花奏に向き直り深々と頭を下げた。

「試す?」

 小さく首を傾げる花奏に、谷崎は顔を上げると、雪の積もった噴水の方へと目をやった。

「でも僕は本気でした……」

 しばらくして、谷崎は小さく口を開く。

「僕は本気で、あなたから志乃さんをもらい受ける気でいました。志乃さんとあえて距離を置こうとするあなたから、志乃さんを奪うつもりでした」

 谷崎の硬い声に、花奏ははっと顔を上げる。

「でもダメですね。痛いほど思い知りました。初めから、僕の入り込む余地なんて、微塵もなかったんです。あの軍楽隊の演奏会の日からずっと……」

 谷崎は静かに目を閉じた。
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