大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「志乃さんにとって生涯の伴侶は、あなたしかいないのだと、はっきりとわかりました。あなたにとって志乃さんが、たった一人の妻であるように……」

 谷崎は花奏を振り返ると、にっこりと笑みを見せている。

 その瞳はどこか爽快で迷いがなく、とても立派な一人の青年だった。


「谷崎殿、もしやあの手紙は……」


 ――わざと書いたのでは?


 花奏はそう谷崎に聞こうとして、口を閉じる。

 もしかしたら谷崎は、志乃との関係から逃げ出そうとしていた花奏に、わざと焚きつけるように手紙を書いたのかも知れない。

 でも……。


 ――それを聞くのは野暮(やぼ)かも知れん。


 花奏が口をつぐんだ時、ヘッドライトの光とともに、谷崎家の車が玄関の前に横付けされた。


「さぁ唯子、志乃さんを車までお連れして」

「はーい」

 谷崎の声に明るく返事をすると、唯子は志乃の手を引きながら車へ向かう。

 志乃が車の中へと入ったのを確認した花奏は、再び谷崎に向き直った。


「谷崎殿、志乃が世話になりました」

 深々と頭を下げる花奏に、谷崎は小さく首を振った後、軍人らしく静かに敬礼する。

「お二人の幸せを、願っております」

 その姿に花奏は力強くうなずくと、花奏を待つ志乃の元へと歩いていった。
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