大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~

通った想い

 走り出した車の窓から顔を出すと、志乃は振り返って何度も手を振る。

 谷崎と唯子は、志乃たちを乗せた車が門を出るまで、ずっと手を振っていてくれた。


「今日はとても楽しくて幸せな日でした。旦那様が迎えに来てくださったことが、一番嬉しかったですが……」

 車が海沿いを走り出した頃、志乃は小さく口を開くと、花奏の顔を見上げる。

 そして恥じらうように、またすぐに顔を下に向けた。

 さっきから花奏は、ずっと志乃の顔を見つめている。

 花奏に見つめられた頬が、熱を持ったようにじりじりとした。


 ――今日の旦那様はどうされたのかしら……。いつもより、とても瞳がお優しい……。


 このまま花奏に見つめられていたら、ここで溶けてしまいそうだ。

 ドキドキとした鼓動の音が、外にまで聞こえてしまうのではと心配した志乃は、恥ずかしさを取り繕うように、脇に置いた箱を見ながら声を出した。


「あの、今日は、唯子ちゃんに誘われて、ケーキを焼いていたのです」

「ケーキ?」

 花奏が小さく首を傾げている。
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