大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 花奏が雪の中、志乃を迎えに来たことが気になっていたが、ちゃんと手紙は読んでいたようだ。


 ――ではどうして、旦那様は谷崎様のお屋敷まで、迎えに来られたのかしら? それも傘もささずに……。


 志乃が小さく首を傾げた時、膝に置いていた志乃の手を、花奏がそっと握った。

 志乃は「きゃっ」と悲鳴を上げると、飛び上がって花奏を見つめる。

 花奏は志乃の反応はそのままに、志乃の手を両手で包み込むと、そっと自分の唇に当てた。


「だ、旦那様……!?」

 志乃は悲鳴にも似た声を上げる。

 花奏がこんなことをするなんて、未だかつてないことだ。

 志乃は今にものぼせて倒れてしまいそうになりながら、真っ赤な顔を花奏に向ける。


「志乃、俺はやっと気がついたのだ」

 すると花奏が、志乃を愛おしそうに見つめながら口を開いた。

「志乃を失うことほど、今の俺を苦しめるものはないのだと」

「え……」

 志乃は目を見開くと、吸い込まれそうなほど深い、花奏の瞳の奥を見つめる。
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