大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 斎宮司 花奏(さいぐうじ かなで)は、ガタクリと鳴る音と振動を感じながら中折れ帽を外すと、開いた窓から吹き込む風に小さく目を細めた。

 風は花奏の後ろで一つに括った長い髪を、もてあそぶかのように揺らしている。

 蒸し暑くなってきたこの時期の潮風は、爽やかで心地よく、今年もこの季節がやってきたのだと気づかされる。

 それでも今花奏の心は、幾分か乱されているのは確かだ。


 今日、なぜ運転手がいつもと違う道を通り、あの家の前で一旦停車したのか、箏の音を聞いた時にはっきりとわかった。

「田所だな……」

 花奏は小さく声を出すと、ため息をつく。


 趣のある庭が見事な屋敷の前で自動車が止まった時、花奏は小さく首を傾げた。

 その瞬間、風にのって聞こえてきた箏の音に、はっと顔を上げた花奏の瞳は揺れていたと思う。

 すぐに周囲を見渡した花奏は、庭の奥の障子が開け放たれた部屋で、視線をピタリと止めた。
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