大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 ――もう、この幸せを、私はどうしたらよいの……。


 胸がいっぱいで舞い上がりそうになった志乃は、ふと前の席の運転手に気がついて、突然ぱっと花奏から身体を離した。


「あ、あの……ええっと……その……」

 急に慌てだす志乃に、花奏は楽しそうにくすりと肩を揺らしている。

「だ、旦那様……こんなに濡れておいででは風邪をひいてしまいます」

 志乃は恥ずかしさを取り繕うようにそう言うと、自分の肩にかかっていたショールを外す。

 そしてそのまま花奏の首元に手を回し、ショールを肩にかけようとした。

 その瞬間……。


 花奏がショールごと、志乃の手をそっと掴む。

 そして運転席から顔を隠すようにショールを広げると、志乃の唇にそっと口づけをした。


 ――え……。


 志乃は一瞬呆気にとられたように、目をぱちくりとさせていたが、次第に顔から火が出るかと思う程に、真っ赤に染める。

「だ、だ、だ、旦那様……わ、わ、私……」

 志乃は言葉にならない声を上げた。

 そんな志乃を愛おしそうに見つめると、花奏は優しくほほ笑んだのだ。
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