大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~

新しい年のはじまり

「志乃様、そちらの棚にございます重箱を、取ってくださいませんか?」

 炊事場で小さく欠伸(あくび)をしていた志乃は、五木の声にはっと我に返ると背筋を伸ばす。

 恐る恐る顔を上げると、五木は志乃にじっとりとした視線を向けていたが、顔を逸らしフォッフォッといつもの笑い声をあげた。


 年が明け、志乃たちは穏やかな新年を迎えている。

 今朝は早くから五木と共に、正月の料理を準備しているところだ。


「昨夜は遅くまで、居間の明かりがついていたようですが?」

 すると五木が、雑煮の(つゆ)の味見をしながら声を出した。

「は、はい……。旦那様と除夜の鐘を聞いておりました……」

 志乃は昨夜の、花奏と二人きりで過ごした時間を思い出し、頬をぽっと染める。


 昨夜は、雪を見ながら晩酌をする花奏につき合って、志乃も夜遅くまでずっと花奏の側にいた。

 時折、花奏の指先が志乃に触れ、その度にドキリと大きく心臓が跳ねる。

 花奏はそんな志乃を楽しむように笑うと、美しく透き通った瞳を何度も覗き込ませた。
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