大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 ぼんやりとクリスマスの晩のことを思い出していた志乃は、廊下を歩く花奏の足音に、はっと顔を上げる。

「旦那様、おはようございます……」

 炊事場に顔を見せた花奏に、志乃は恥じらうように、頬を赤らめて声を出した。

 志乃が見上げると、いつもより遅く起きてきた花奏は、やや()だるさの残る笑顔を見せている。

 その姿が妙に艶っぽく、志乃はまたドキドキと鼓動を早くした。


 花奏は志乃と五木に挨拶の言葉をかけると、土間に下り志乃の手元をそっと覗き込む。

「だて巻きか……。久しぶりだな」

 身をかがめた花奏の着物の袖がかすかに触れ、志乃の心臓が飛び跳ねた。

「だて巻きは、志乃様のお手製ですぞ」

 すると、かまどに火をくべていた五木が、背中越しに声を出す。

「ほお、志乃が?」

 花奏の驚いたような声に手を止めると、志乃は重箱に詰めていた、だて巻きを花奏に差し出した。


「……出来栄えは、いかがですか?」

「うむ、美味しそうだ」

 にっこりとほほ笑んだ花奏に、志乃はほっとして笑顔を見せる。
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