大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「まずはお水を……」

 五木が水の入った湯飲みを谷崎に手渡すと、谷崎はそれを一気に飲み干した。

 谷崎の息が落ち着くのを待ち、再び花奏が声を出す。


「谷崎殿、もう一度はじめから説明してください。エドワードは何ゆえ、切りつけられたのですか?」

「切りつけられた……!?」

 志乃は思わず叫び声を上げ、両手で口元を覆ったまま、床にぺたんと座り込んだ。

 志乃の声に顔を上げた谷崎は、志乃に目を向けた後、姿勢を正して花奏に向き直る。

「今日はうちの屋敷にて、父が主催の新年の祝賀会を行っておりました。エドワード殿はそこに参加しておられたのですが……」

 谷崎は苦しげな顔を上げる。


 谷崎の話によると、エドワードは会に参加していた若い将校と些細な意見の相違から、言い合いになった。

 興奮する将校に、会の雰囲気を考えたエドワードがその場を去ろうと背を向けた時、カッとなった将校が脇にさしていた短刀を抜いたというのだ。

 切りつけた将校はすぐに周りに取り押さえられ、エドワードの怪我も擦り傷程度だという。
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