大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 花奏の言葉に、志乃は社交界でのエドワードの様子を思い出す。

 故郷(ふるさと)の曲を聴きながら目を細めていたエドワードは、自分の故郷とこの街を重ねるように大切に思ってくれていたのだろう。

 だからこそ今回の事件は、エドワードにとっては裏切られたのも同然の仕打ち。

 一刻も早くこの地を去りたいとまで思う、エドワードの気持ちを考えると、苦しくてたまらなかった。


「ただ……」

 すると、花奏が何かを言おうとして口ごもる。

「旦那様?」

 志乃が顔を上げると、花奏の瞳は迷うように揺れている。

 しばらくして、花奏はゆっくりと口を開いた。


「契約が白紙になるだけなら、まだ良い……」

 花奏の声に、谷崎は一歩詰め寄る。

「はい。私もそれを案じております」

 花奏と谷崎の低い声に、志乃は二人の顔を交互に見つめる。

 エドワードの心が傷ついたことは当然のことながら、契約の白紙以上に困った事態が起こるというのだろうか。


「軍の幹部はこのことを?」

「いえ、一部の上官には内々に報せておりますが、まだ(おおやけ)には……」

 神妙な面持ちで問う花奏に、谷崎は声をひそめながら首を横に振った。
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