大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「谷崎殿、すぐに伺いますゆえ、そうお伝えください。志乃、出かける支度を」

 花奏は谷崎に頭を下げると、サッと立ち上がり、廊下を部屋に向かって歩き出す。

 志乃は花奏の後姿を見て、慌てて自分も立ち上がった。


「谷崎様、では失礼いたします」

 志乃は谷崎に声をかけると、花奏を追って走りだそうとする。

 すると谷崎が小さく呼び止め、志乃は首を傾げながら振り返った。


「志乃さん、このような時に言う話ではないですが……」

 谷崎は少し躊躇(ためら)うように下を向いてから顔を上げると、寂しそうにほほ笑む。

「斎宮司殿とお二人、素敵なご夫婦になられましたね」

 突然の谷崎の言葉に、志乃はぽっと頬を赤らめた。

「あ、あの……もしかしたら、唯子ちゃんのクリスマスプディングのおかげかも知れません。その節は、涙をお見せしてしまい、大変失礼いたしました」

 深々と頭を下げる志乃に、谷崎はゆっくりと首を横に振る。

 すると屋敷の奥から、志乃を呼ぶ花奏の声が聞こえ、五木が志乃を促した。


「では、失礼いたします」

 花奏の元へと駆けていく志乃の後姿を見ながら、谷崎は小さく息をつく。

「やはり、()いてしまうな」

 谷崎はその言葉を飲み込むと、一足先に自宅へと戻るため、斎宮司家を後にした。
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