大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~

志乃の提案

「旦那様、遅いですね……」

 志乃は居間から顔を覗かせると、真っ暗になった窓の外を見つめる。

 花奏が谷崎の屋敷に出かけてから、もう随分と時間が経っていた。

「ここで心配していても仕方がないでしょう。そろそろ夕餉(ゆうげ)の支度でもしますかな……」

 そう言いながら腰を上げる五木の顔も、不安がぬぐえないのがわかる。

「お手伝いします」

 すると志乃が五木に続くように立ち上がった時、表で車が止まったような音が聞こえた。


「旦那様でしょうか?」

 志乃ははっとして五木と顔を見合わせると、すぐにバタバタと玄関に向かって走り出す。

 しばらく戸を開けて待っていると、外の木戸を疲れた顔の花奏が入って来るのが見えた。


「旦那様!」

 志乃は小さく叫び声を上げると、すぐに花奏の元に駆け寄る。

「志乃、ただ今帰った」

 花奏は静かにそう言うと、不安そうに見上げる志乃に小さくほほ笑んだ。

 花奏の顔つきからは、明らかに状況が良くないことは見て取れる。

「エドワード様のご様子は、いかがでしたか……?」

 遠慮がちに問いかける志乃に、花奏は小さく首を振った。
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