大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 花奏が谷崎の屋敷に駆け込んだ時、エドワードは窓の前に立ち、静かに外を眺めていたそうだ。

 怪我の程度は軽く、振り下ろされた短刀を避けるように出した手の甲を、ほんの少し刃がかすめた程度だという。


「さっきから、何を話しかけても答えてくれないんだ」

 花奏が部屋に入ると、田所がそっと声を出した。

 刃を向けられるという、恐怖の体験をしたのだ。

 エドワードの気持ちを考えれば致し方のないこと。

 身体の傷よりも、心の傷の方がはるかに大きいのは、目に見えて明らかだった。


「エドワード……」

 花奏が声をかけると、エドワードの肩がわずかに揺れる。

 エドワードは窓の外を見つめたまま、何も答えなかった。

 花奏が隣に立ち、だいぶ時間が経った頃、エドワードはぽつりぽつりと声を出した。

「ヤハリ、ワカリアエナイ……」

「え?」

「ボクト、カナデノ、フルサトハチガウ……」

 戸惑う花奏に、エドワードは揺れる瞳を向けたそうだ。


 花奏は湯飲みに口をつけると、隣に立つ志乃を見上げた。

「聞いた話によると、エドワードを切りつけた将校は、前々からエドワードを目の敵にしていた節があったそうだ」

 志乃は小さく息をのむ。
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