大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
「今回も、些細な生活習慣の違いでエドワードを挑発しようとしたが、軽くあしらわれたことに激高したようだと……」

「そんな……」

「エドワード自身は、この件を大事(おおごと)にする気はない。それだけが、せめてもの救い……。ただ……」

 花奏は拳を握り締めると、重くドンと机を叩いた。

「ただ、この街を故郷(ふるさと)のように慕っていたエドワードが、この街や人に失望して帰国することになるなど。それが俺は悔しくてたまらんのだ……」

 声を震わせる花奏の姿に、志乃は胸が苦しくなる。


 自分の故郷とこの街を重ね合わせ、大切に思ってくれていたエドワード。

 このまま帰国すれば、もう二度と、この街には戻って来てはくれないだろう。

 そのことがどれだけ花奏にとっても悔しいことか、痛いほど志乃にも伝わってきた。


「どうにかエドワード様が、この街に少しでも希望を持って、帰国していただくことは、できないものでしょうか?」

 志乃が潤んだ瞳を上げると、花奏が小さく息をつく。

「難しいかも知れん。話すら出来ぬのだ。心を閉ざしたように、ほとんど目も合わせてくれなかった」

 志乃の頬を涙が伝う。

 どうにかして、傷ついたエドワードの心の隙間に、入ることはできないものか。
< 219 / 273 >

この作品をシェア

pagetop