大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~

故郷の曲

 次の日、志乃は緊張した面持ちで、静かに祝賀会の会場に立っていた。

 谷崎邸の新年の祝賀会は三が日(さんがにち)の間続くようで、今日はその中日にあたる。

 まさか昨日、あんな事件があったのが嘘のように、食事や歓談を楽しむ人々の顔つきは陽気だ。

 以前志乃が社交界に参加した時と同じように、会場内は煌びやかに飾り立てられ、新年を祝うべく用意された品々は一層華やかに見える。


 志乃はそっと顔を上げると、会場の奥の扉に目をやった。

 今はあの奥の部屋で、花奏がエドワードを説得しているはずだ。

 事件の後、怪我の処置を受けたエドワードは、そのまま田所が付き添い、谷崎邸にとどまっていた。


 昨日、志乃と話をした花奏はすぐに谷崎邸に赴き、谷崎とその父親に志乃の案を伝えた。

 「今更、何をしても無駄だろう」と、谷崎の父は嘆いていたそうだが、谷崎の強い説得もあり、しぶしぶ志乃の演奏を受け入れることになったのだ。
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