大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 曲の一番を弾き終わり、二番に演奏が入った時、志乃ははっとする。

 志乃の箏に合わせて、後ろのサロン奏者たちが伴奏を奏で出したのだ。

 途端に重厚感を帯びた演奏は、次第に人々のざわつきをしずめ、いつの間にか皆が曲に引きこまれるかのように、聴き入りだしている。


 曲が三番に入った。

 誰もが静かに揺れる水面(みなも)を心に描き、故郷の街の情景を思い浮かべた時、今度はどこからか歌声が聞こえてきた。

 志乃が息をのみ会場の後ろに目を向けると、そこにはエドワードが立っている。

 エドワードは涙を流しながら、花奏の肩を組むと、舞台の前へとやって来た。

 見ると花奏もエドワードと共に歌を口ずさんでいる。


 言葉の違う二人の歌声は会場を包み込み、いつしかそれに合わせるように、皆が口々に唄い出した。

 会場内のひとりひとりが、己の心の音色で奏でるその歌声は、大きなうねりとなって、いつしか天高く響き渡る一つの音楽になっていく。


 ――なんて、素晴らしいの……。


 そして皆が感動の余韻に浸る中、志乃の演奏は終了したのだ。
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