大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 花奏は優しくほほ笑むと、静かにうなずいた。

「志乃が箏に込めた想いを、そのまま皆に伝えればよいのだ」

 花奏に背を押され、志乃は戸惑いながら小さくうなずくと、おずおずと再び舞台に上がり、皆に向き直る。

 志乃が前に立った途端、会場内は急に静まり返り、人々は志乃の言葉を待つように、期待のこもった視線を向けた。


「本日は、私の(つたな)い演奏をお聞きいただき、感謝申しあげます……」

 声を上ずらせつつも深々と頭を下げた志乃は、しばらく考えた後、緊張しながらゆっくりと口を開いた。

「ご存じの方もおられるかと思いますが……箏には“ゆりいろ”という技法があります。箏は本来であれば譜面通りに弾くことが良しとされますが、この“ゆりいろ”だけは、奏者によるところが大きいのです……」

 志乃は一旦口を閉じて顔を上げる。

 目の前では志乃の言葉を、花奏がエドワードに訳して伝えてくれていた。
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