大正ゆりいろ浪漫~拝啓 死神の旦那様~
 母の絞り出すようなかすれた声に、五木は再び目を細めている。

 志乃はそれ以上、何も言うことができなくなってしまった。


「それではまた五日後にこちらに参ります。お返事はその時にお聞かせください」

 玄関先まで送りに出た志乃に、五木は(うやうや)しく頭を下げると、そのまま引き戸に手をかけて静かに戸を開く。


 ――どうしたら良いの……。


 志乃はその小柄な五木の、丸い背中をぼんやりと見つめていた。


「そうそう」

 すると五木がふと声を出す。

 五木は振り返ると、怪訝な顔をする志乃に、にっこりとほほ笑んだ。


「志乃様にだけ、特別に教えて差し上げましょう。お母上はご存じありません」

「何をですか?」

「旦那様が、街の人々から、なんと呼ばれているかです」

「なんと呼ばれているか……?」

 五木は細めた目をさらに細くすると、口元を怪しく引き上げた。


「旦那様は、よく“死神”と呼ばれております」

「死……神……?」

「では志乃様、ごきげんよう」

 五木は、息をのみ動けなくなった志乃に頭を下げると、フォッフォッフォッという笑い声と共に、そのまま消えるようにいなくなった。
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